ラグナル・ロズブロークあるいはロドブローク古ノルド語: Ragnarr Loðbrók、英: Ragnar Lodbrok, Lothbrok、丁: Regnar Lodbrog「毛羽立ちズボンのラグナル」の意)は、ヴァイキング時代の古ノルド語詩や、いくつかのサガに記述されている古代スカンディナビアの伝説的な指導者で王、そして英雄である。これらの伝承によれば、ラグナルは9世紀にフランスとイギリスに災いをもたらした人物であり、骨無しのイーヴァル、剛勇のビョルン、ハールヴダン・ラグナルスソン、蛇の目のシーヴァルド、ウッボらを含む高名な息子たちの父でもあった。

伝説によれば、ラグナルは貴族の婦人ソーラ、アースラウグらと2度、または楯の乙女ラゲルタを含め3度結婚した。デンマークの王ゴズフレズと縁続きであり、スウェーデンの王シグルド・リングの息子であるといわれている。彼は自ら王になると、侵略と征服によって有名になったが、最後は敵であるノーサンブリアのアエルラ王に捕らえられ、蛇牢に入れられて殺害された。彼の息子たちは大異教軍を率いてイングランドを侵略し、残虐な復讐をした 。

史実性

ヒルダ・エリス・デイヴィッドソンは、『デンマーク人の事績』の解説の中で、「第9の書」に見られるラグナルの伝説は、サクソがさまざまな出来事と物語をひとりの王ラグナルに落とし込もうとしたために多くの混乱と矛盾が現れていると注記している。そのため、『デンマーク人の事績』でラグナルがしたとされる行為は、他の情報源を介してさまざまな人物と結びつけることができ、うちいくつかはより歴史的に確実である。以下が「歴史的なラグナル」と考えられる人物である。

  • ホーリク1世(854年没)
  • ラグンフリズ(814年没)。
  • デンマークの一部を支配し、ハーラル・クラークと対立した王。
  • 9世紀にパリを攻撃したレギンヘルス(Reginherus)という人物。
  • おそらく『アイルランド年代記』に登場するログンヴァルド。
  • 865年に大異教軍を率いてイングランドに侵攻したヴァイキングのリーダーの父。

これまで伝説的なラグナルと、1人あるいは何人かの人物を結びつける試みは、さまざまな報告と年代配列の帳尻を合わせるのが困難であるために失敗してきた。にもかかわらず、9世紀中頃のヨーロッパを荒し回り、名高い息子たちの父となった、ラグナルという(あるいはそれに似た)名のヴァイキングの英雄は際立って根強く、その諸相のいくつかは『アングロ・サクソン年代記』のような比較的信頼の置ける出典にも取り上げられている。1979年のデイヴィッドソンの記述によれば「研究者は近年、ラグナルの物語の少なくとも一部は歴史的事実に基づいていることを認めている。」一方、キャサリン・ホルマンは「ラグナルの息子たちは歴史的人物であるが、ラグナル自身が実在したという証拠は存在しない。彼は数人の異なる歴史的な人物を混ぜたものであり、純粋に文学的な発明である」と結論づけている。

原典

ラグナルについての記述を含む中世の原典は以下の通り

  • 12世紀の歴史家サクソ・グラマティクスによる『デンマーク人の事績』「第9の書」。
  • 「ラグナル・ロズブロークのサガ(Ragnars saga Loðbrókar)」、伝説的サガ、『ヴォルスンガ・サガ』の続編。
  • 「ラグナルの息子たちの話(Ragnarssona þáttr)」、伝説的サガ。
  • 「クラーカの言葉(Krákumál)」ラグナルの死の詩。12世紀のスコットランドのスカルド詩。
  • 「ラグナル頌歌(Ragnarsdrápa)」9世紀の詩人ブラギ・ボッダソンによるスカルド詩。断片のみ現存。

人名対照表

系図

大衆文化

  • エドウィン・アザーストーンの小説"Sea-Kings in England"で触れられている。
  • エディソン・マーシャルの1951年の小説"The Viking"に登場する。
  • リチャード・パーカーの1957年の歴史小説"The Sword of Ganelon"では、ラグナルと彼の息子や、ヴァイキングの収奪の文化について研究している。
  • 1958年の映画『ヴァイキング』では、アーネスト・ボーグナインが演じるラグナーがエイラ王に捕われ、狼の穴に落とされる。カーク・ダグラスが演じる彼の息子アイナー(おそらく、史実ではイーヴァル)は復讐を誓い、ノーサンブリアを征服する。脚本はマーシャルの小説に基づいている。
  • 1993年のハリー・ハリソンの歴史改変小説"The Hammer and the Cross"ではラグナルの難破と捕縛、そして処刑が描かれている。
  • 『シヴィライゼーション3』や『メディーバル:トータルウォー』、『シヴィライゼーション4』を含むさまざまなストラテジーゲームで、ラグナルは歴史的な設定のもと登場している。
  • 2013年に放送が始まったヒストリーチャンネルの歴史ドラマのテレビシリーズ『ヴァイキング 〜海の覇者たち〜』ではトラヴィス・フィメル演じるラグナルが主役である。

脚注

注釈

出典

参考文献

翻訳元

  • Saxo Grammaticus (1980) [1979]. Davidson, Hilda Roderick Ellis. ed. Gesta Danorum [Saxo Grammaticus: The history of the Danes: books I–IX]. 1 & 2. Translated by Peter Fisher. Cambridge: D. S. Brewer. Chapter introduction commentaries. ISBN 978-0-85991-502-1 
  • Holman, Katherine (July 2003). Historical dictionary of the Vikings. Lanham, Maryland: Scarecrow Press. ISBN 978-0-8108-4859-7 

翻訳・加筆

  • サクソ・グラマティクス 著、谷口幸男 訳『デンマーク人の事績』東海大学出版会、1993年9月30日。ISBN 4-486-01224-0。 
  • 谷口幸男『エッダとサガ 北欧古典への案内』新潮社〈新潮選書〉、1976年。ISBN 4106001829。 
  • 谷口幸男『エッダとサガ 北欧古典への案内』新潮社〈新潮選書〉、2017年7月。ISBN 9784106038136。 
  • 『IDUN 北欧研究』別冊2号「デンマーク語固有名詞カナ表記小辞典」編 新谷俊裕・大辺理恵・間瀬英夫、大阪大学 世界言語研究センター デンマーク語・スウェーデン語研究室 2009年外部リンク。

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